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耕すことの四方山話

28 地力維持型農業と地力消耗型農業

作物は土中から色々な養分を吸収して生育します。作物が生育するには、17の元素が必要といわれています。窒素・リン酸・カリは多量要素で、石灰は中量要素です。吸収量の多い元素は、不足すると直ぐに障害が発生しますから、直接的に手当てをしますが、問題になるのは微量要素です。微量であっても作物の健全な生育に欠かせないもので必ず必要となりますから何れは不足をきたします。そして不足すると忌地現象が発生しますので注意して不足を補う必要があります。

水田での栽培には水を使用するので微量要素は水が過不足なしに補っています。本来は水稲であっても連作が良いとは言えませんが、何百年と連作が出来ているのは水によって支えられているのです。山に降った雨が山の腐葉土や上層を滑り抜け、川の流れとなってやがて水田に注ぎ込まれる間に、色々な元素が溶け込むので人為的な微量要素の補給が無くても問題が発生することはありません。従って水田は、地力維持型と言われるのです。畑作の場合は乾燥地帯で畑地潅漑を行うことはあっても、水田のように大量の水は使いません。日本のように湿潤地帯では、畑地潅漑は殆ど行われません。作物が吸収した微量要素の補填は難しく、忌地現象が発生しやすい状態になります。従って畑作は、地力消耗型と言われます。

畑作の場合、人類はどのようにして作物が土壌から収奪した微量要素を補填してきたかと言えば、代表的な一つに堆厩肥の畑地還元があります。家畜は食べたものを全量消化してしまう訳ではありませんので、色々な要素を包含して排出します。我が国の場合、農耕飼料を海外から輸入しているので輸入先の土地の微量要素を日本土壌に戻していることになります。有機残渣の鋤込みも、少ないとはいえ、ある程度は戻していることになります。土壌の生物性の活性化にも役立っていることからすると有機物の還元は非常に大切だと言えます。

さらには深耕です。手で耕やしていた時代は、5~6センチの浅耕ですから根圏域が狭く、色々な要素が忽ちのうちに作物に吸収されてしまいます。耕盤(硬盤)が形成されて排水性も悪化しますので人は何年かに一度は深耕して、根圏域の拡大に努めます。それにより、下層の未熟土が作土に混和され、未熟土に含まれていた微量要素が可給態となって作物に吸収されるようになり、土地生産性を回復します。

人力で耕していた時代から畜力耕へと発展すると人力よりも深耕が可能となり、作物の収量は一段と増加します。畜力耕では10から15センチでしたが、時を見て心土耕を行いますから根圏域が増します。作物は広い範囲から養分を吸収できるので、より健全な生育を示すようになります。

第二次大戦後にホイルトラクタが導入されると、耕深は20から30センチとなり、畜力耕の倍で耕されるようになりました。我が国の土壌は、下層土に有機物が不足しているのは勿論のこと、化学性が劣悪なので、当初は急激な深耕は望ましくないとされました。リン酸の吸収係数が大きく石灰が不足しているので、デリケートな豆類は、大幅に減収してしまいます。ある年数を経ると馴化するので計画的な輪作を組めば問題はないのですが、それまで待つことが出来ずに、僅かの減収も認められないとされました。そこで、土壌改良資材としてリン酸や石灰を散布することで問題は解決されました。

その後の深耕によって、予想以上の増収がもたらされた要因は、下層土に微量要素が多く含まれていて作土に混合されたことから、微量要素の補填が期せずして行われたと考えられます。

歴史的に見ると、人力耕、畜力耕、動力耕の順で段階的に増収していきますから、深耕による微量要素の補填が大きな役割を果たした言えます。畑作は深耕による土地の利用拡大で忌地現象を克服してきた訳です。

これだけ化学技術が発達しているのに、微量要素の補填が化学的に行えないのはおかしいと考えられるかもしれません。マグネシウムや銅、亜鉛などは不足していることが分かれば化学肥料に混合して供給したり、葉面散布などで比較的容易に補填できますが、他の微量要素は一筋縄では解決しません。

岩石が風化して土壌になり、岩石に含まれていたいろんな元素が土壌から作物に吸収されるようになりますが、時間を掛けた風化の過程を経ないと作物に吸収されない元素があると言われています。それではと、岩石を砕いて圃場に散布しても全ての元素が直ぐに作物に吸収されるとは限りません。ここが微量要素補填の難しいところです。

日本では、大正12年にドイツやデンマークから優秀な模範農家を招聘し、実際の営農を通じてヨーロッパ農業を伝習しようとしました。帯広にはドイツ人のグラボウ一家が入ってきました。当時の帯広は、長年の豆類の過作で忌地現象が起き、耕起深が浅いことから雑草が繁茂していました。

ドイツ人は潔癖ですから雑草の繁茂を許しません。そこで、持って来た最新式のプラウで深耕することで雑草は少なくなりました。

しかし、豆類の生育は無惨でした。下層土には有機物が少なく化学性も劣悪です。それが作土に混合されれば、神経質な豆類の生育が劣るのは当然のことです。現在であれば土壌改良資材がありますが、当時はそんな便利なものはありません。堆厩肥を多目に還元する位のことしかできません。

しかし、下層土には微量要素が豊富に含まれています。それが作土に混和されると割合と早く風化を完了し作物に吸収されるようになります。これは順化と言えるものです。プラウで深耕を繰り返したグラボウ一家が契約満了し帰国した5年後には、豆類を栽培する圃場の忌地現象も解消し、その他の作物についても収量、品質共に地域最高となっていて、当初は疑心暗鬼であった人々も、さすがにグラボウさんだと誉め称えたと言われています。

耕すことによって、本来土地が持っている潜在能力を引き出せます。

また、耕すことによって永劫末代土地の生産性を失わないように保全もできます。

英語で耕すは「cultivate」で、「culture」とも言われ、これは耕した場所で文化が発祥し、育まれると言うことのようです。耕すことで安定的に食糧を確保でき、その余裕が文化を育むとも言えるでしょう。

耕すと文化が同意義語と言うのは、生活に密接な関係があるからです。

改めて耕す意義を考えると、文化を衰退させないためにも農業技術を発展させることは人類の使命ともいえると思います。