育苗の労力軽減、代かき・移植体系との作業分散、ほ場づくり作業の高効率化・・・
メリットの大きい乾田直播。
千葉県印西市で、2年目の乾田直播に取組む五十嵐さんの挑戦を追います。
千葉県北部にある印旛沼の干拓地で水稲単作経営を、35歳で大型自動車整備の仕事から 脱サラして、父から引き継いだ頃は平均15aのほ場で約18ha。 父親の時代から合筆を進めていたが、レベラーの導入でその作業効率は格段に向上。 25haを超えた頃から積極的な機械投資ができるようになり、適期作業のために 様々な機械を導入する。湿田エリアなので、いかにほ場を乾くようにするかが命題。 雨が降っても3日で作業が再開できるほ場を目指す。現在の耕作面積は約33haで120筆。 さらに合筆を進めて作業効率の向上を図る。
【耕作面積】約33ha(水稲単作)【労働力】父、本人、息子
・・・・目次・・・・
取材日:2022年3月7日(月)
◉乾田直播2年目の挑戦に向けて
1年目の乾田直播の振り返りと2年目の目標について聞いてみました。

稲作経営者の五十嵐さん
Q、乾田直播を導入したキッカケは?
A、代掻きが嫌で。移植の苗箱も以前は、1反歩18枚で計算していたが、一時5000枚播いたんですよね。今は、密苗にして1反歩12枚までに減らして、コシヒカリに関しては8枚でやってます。
だいぶ楽にはなったんですけど、ハウスに並べたりするのが大変ですよね。
この先、面積が増えていった時に、代掻きしていると時間が足りなく無くなると思って、始めてみました。
Q、1年目の感想は?
A、家族が「楽でいいよね」って言ってました。子供も、「今年もっとふやさないの?」って言われましたね。草の処理が大変だよって言われてたんですけど、思ったほど、草も抑えられて出芽も好調で、特にこれといった問題はなかった。普及所の方に、生育調査してもらって、「目標数値以上になってたね」と言われました。ちょっと上手くいきすぎましたね。
Q、収量はどうでしたか?
A、移植で、ふさおとめが9俵半だったんですよ。乾田直播で8俵半だったんで、1俵減くらいですんだんで、満足ですね。
Q、課題はありましたか?
A、元肥の散布ですね。(ブロードキャスタ散布)ムラになってしまって、初期生育が悪かったところがあったので、今年は播種と同時に(元肥)を撒いていこうと思います。
Q、今年の耕作面積と品種は?
A、水稲作付け面積が33ha、そのうち移植が32ha。乾田直播が今年1ha、品種はふさおとめとふさこがねです。
Q、今後の目標は?
A、いずれ飼料米とか全て乾田直播にしたいと思っていて、量が取れないと意味がないので、収量上げるのが目標ですね。
取材日:2022年3月11日(金)
◉播種・施肥・鎮圧
播種と施肥の同時作業と鎮圧作業は、「あっ」と言う間に終了。

左から、ふさおとめ(5反)、事務所・倉庫・乾燥機、三棟の育苗ハウス、ふさこがね(5反)
播種・施肥・鎮圧日:2022年3月11日(金)
天候:晴れ
品種毎の栽培面積:ふさおとめ 5反、ふさこがね 5反

ドリルシーダー による播種・同時施肥作業
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播種作業
播種・施肥機:ドリルシーダーW25AAI+施肥機W25ADZ
タイプ:ディスクタイプ
播種様式:条播
作業幅:250cm、条数:8条 、条間:30cm
播種深度:2cm
種子消毒:テクリードを種1kgに対して現液5ml塗布
播種量:ふさおとめ 4kg/10a(設定4.2kg/10a)、ふさこがね 4.7kg/10a(設定5kg/10a)
施肥量:ふさおとめ 乾田直播LP早生用 15kg/10a(成分41-0-0 チッソ5.8kg)、ふさこがね 同時施肥なし
トラクタ:クボタMR97
作業時間
①ふさこがね 開始 8:25〜終了9:01(36分)
②ふさおとめ 開始 9:24〜終了9:58 (34分)
乾田直播で栽培する品種は、関東一早く収穫できる早生品種の「ふさおとめ」を5反。新たに「ふさこがね」を5反。「ふさおとめ」のみ全量基肥一発肥料「乾田直播LP早生用」を播種と同時に施肥しました。枕地はトラクタの旋回で踏圧を受け硬くなるため、枕地を含む外周を先に播種します。播種スピードは時速10kmの高速作業で、確実に種をおとして土をかぶせていきます。

ケンブリッヂローラーによる鎮圧作業
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鎮圧作業(播種後)
鎮圧機:ケンブリッヂローラーA24ACG
タイプ:直装式19リングタイプ
トラクタ:クボタMZ655
回数:1工程
作業時間
①ふさおとめ後 9:58〜10:18(20分)
②ふさこがね後 10:20〜10:38(18分)
鎮圧は、土塊を砕き種子と土壌を密着させるとともに、播種深さを安定化させ、苗立ちの向上と漏水(縦浸透)を抑制する効果があります。播種の後すぐに、ケンブリッヂローラーを使っての鎮圧作業を行いました。天気も良く、水田ほ場は砂埃が舞うほど乾いていました。
Q、作業後の感想をお聞かせください。
A、とても楽ですね。泥の中に入らなくてすむのが、やっぱり一番良いですね。トラクターは汚れないし、長靴もいらない。最近、田んぼはもうスニーカーですよ。

播種+施肥・鎮圧後の「ふさおとめ」ほ場、溝掘り機による額縁明渠が施工されています

種子(ふさおとめ)と肥料(乾田直播LP早生用)播種深度2cm

播種+施肥・鎮圧後と一週間後の雨で水浸しになった「ふさおとめ」5aほ場の様子
播種・施肥・鎮圧の一週間後の3月18日(金)夜に降った雨により水浸しになったほ場は、はたしてこの後の出芽にどう影響してくるのでしょうか。
Q、直播ほ場全てが水浸しになった時の心境をお聞かせください。
A、水浸になったのは、試練です。どうなるか、またデータが取れるじゃないですか。今後に向けての試練です。楽しみです、失敗して覚えるんですよ。去年が成功しすぎているから、あんまり良くなかったなと思います。初年度やって失敗してダメだったからやめちゃうのは良くないと思うんですよ。継続って大事だと思います。やらないで後悔するんだったら、やって後悔したほうが良いと思っています。
取材日:2022年4月1日(金)
◉出芽前の生育調査
出芽前の種の生育を確認しました。



播種した種籾はどうなっているのでしょうか。播種から21日目に、乾田直播のほ場を掘り返して、それぞれの種の生育を確認しました。「ふさおとめ」と「ふさこがね」共に、種籾が吸水して胚の面積が大きくなり、胚の上部の籾殻が割れて根と芽が露出していました。出芽に期待が膨らみます。
取材日:2022年4月8日(金)
◉出芽前処理の除草剤散布
乾田直播において雑草対策は、非常に重要です。



水稲用初期除草剤「マーシェット乳剤」と非選択性茎葉処理移行型除草剤「タッチダウンiQ」を混合
当日の天気は晴れ、気温は19度。出芽始期は、有効温度を日平均気温11.5度以上、有効積算温度が50度とする愛知県の予想式で推定しました。この日までの積算温度が約30度なので、5日後に50度になって出芽することを想定し、除草剤を全面散布しました。「マーシェット乳剤」は、原液を200倍に水で薄め、1反歩あたり80ℓを、「タッチダウンiQ」は、100倍に水で薄め、1反歩あたり80ℓを散布しました。作業時間は、ふさこがね(5反)とふさおとめ(5反)がそれぞれ約20分で終了しました。
Q、播種から現在まで、出芽前の雑草発生状況はいかがですか。
A、乾田直播のほ場では、雑草の発生は見られません。今年は、天気が散々だったので除草剤を散布して、今後どれだけ草が抑えられるかとても楽しみですね。
取材日:2022年4月18日(月)
◉出芽
待望の芽が出てきました!




五十嵐さんが出芽を確認したのは、播種から32日目、除草剤散布から5日目の4月13日(水)でした。「ふさこがね」および「ふさおとめ」ともに、イネは小さいながらもしっかりと成長していました。
取材日:2022年4月22日(金)
◉基肥一発肥料散布
イネが成長するように栄養を与えます。



天気は晴れ、気温は22度。前日に降った雨が残る「ふさこがね」ほ場(5反)での肥料散布は、10分で完了しました。「ふさこがね軽量一発15」は、散布後すぐに効果を発揮するため、イネが栄養を欲しがる出芽後に散布しています。N22、P14、K14で、速効性窒素が65%、有効茎数を早期に確保し品質を高める低コスト肥料です。一方、「ふさおとめ」は、30日後から効果を発揮する肥料「乾⽥直播LP早⽣⽤」を10aあたり15kg、播種時に側条施肥しています。
取材日:2022年4月25日(月)
◉入水
いよいよ水を入れます!水管理の開始です。



「ふさおとめ」ほ場(5反)に入水開始

天気は晴れ、気温は26度。除草剤の散布から14日後です。イネの草丈が5〜6cmに成長した事を確認後、14時54分にイネが水没しない程度の深さに水を入れました。画像は開始から2時間後までの様子で、レーザーレベラー で均平になったほ場に水が扇状に広がり、イネの緑が筋状に見えて水田らしいほ場となりました。除草剤の効果があってかこの段階で雑草は見られず、今年も除草剤は少なくて済みそうです。
取材日:2022年5月5日(木)
◉除草剤散布
入水後の雑草対策を行いました。


⼦供の⽇の天気は晴れ、気温は24度。⼊⽔後の湛⽔状態のほ場へ初・中期⼀発処理除草剤を畦畔からひしゃくにて散布しました。1反歩に25gを散布した⾖つぶタイプの除草剤は、回転しながら溶け出し有効成分が⼟壌の表層に吸着されて除草効果を発揮します。ふさおとめのほ場には、「プライオリティ⾖つぶ250」、ふさこがねのほ場には、アオミドロや藻類にも効果を発揮する「エンペラー⾖つぶ250」を散布しました。昨年も使⽤し効果を実証済みで、局部的に散布するだけで、ほ場全体に有効成分が広がってくれます。

乾⽥直播のイネは、順調な⽣育を⾒せています。無作為に引き抜いた「ふさこがね」の先には、健康的な⽩い根が伸びています。⽩い根は、根のまわりに酸化鉄の膜ができないので、ミネラルも肥料分も吸いやすい状態と⾔われています。

取材日:2022年5月20日(金)〜6月17日(金)
◉稲の生育経過
出穂前の生育状況を確認しました。






6月は、分げつが最盛期になります。両品種の草丈は、どちらも約38cmと順調な生育を見せていますが、藻(アオミドロ)が大量に発生していました。「ふさおとめ」のほ場では、一部オモダカの発生も見られました。
Q、出穂前の雑草発生状況はいかがですか。
A、オモダカが多少増えてますけど、稲刈りに邪魔にならないので、特に気にしてないですね。藻は、昨年も発生しましたが今年はひどいですね。「草が生える所に、稲を植えさせてもらっているんですよ」と友達が言ってるのを聞いてそのとおりだなと思いました。根は、もっと深くまで伸びてくれれば良いんですけどね。でも強い力で引っ張っても太い根っこが張ってますから、なかなか抜けたかったです。良い根っこです。
取材日:2022年6月20日(月)・6月25日(土)
◉出穂前の穂肥(ほごえ)散布
穂肥は、穂の発育に必要な栄養を補給します。



当日の天気はくもり、気温は29度。播種から101日目にふさおとめのほ場に穂肥を散布しました。稲はこの時期、茎の中で籾の集合体である幼穂を作ります。幼穂形成期の穂肥は、稲の活力を高めて穂の籾を充実させるために重要な追肥です。同じく「ふさこがね」にも117日目に穂肥を散布しました。両品種に対して「硫安」を10a当たり12kg。窒素量は、「ふさおとめ」が、8kg(元肥6kg、追肥2kg)「ふさこがね」が、10kg(元肥8kg、追肥2kg)トータルで散布しました。


取材日:2022年7月6日(水)・7月12日(火)
◉出穂とドローンによる薬剤散布
出穂の確認と病害虫対策。





五十嵐さんが出穂を確認したのは、播種から117日目の7月6日でした。両品種ともに、穂は小さいながらもしっかりと成長していました。病害虫の発生によって穂への影響が大きくなる時期ですが、カメムシの発生が見られました。玄米の等級検査において、等級低下の原因となる被害粒の一つ「斑点米」は、出穂後にカメムシによる吸汁を受けることで発生します。よって7月12日にドローンによる薬剤散布が行われました。この散布は5年前から行なっていて、使用薬剤は、いもち病やカメムシ類などに効果を発揮するビームキラップジョーカーフロアブルと紋枯病に効くバリダシン液剤5を水で8倍に薄めて、10アール当たり0.8リットル散布します。



Q、乾田直播ほ場は順調ですか?問題はありますか?
A、乾田直播の稲は、順調に生育しています。しかし気になるのは、雑草イネが少し見受けられます。見つけたらすぐに根本から抜いていますが、水稲除草剤だけでは防除できません。「雑草イネ」の玄米は赤や褐色で、モミが脱粒しやすい。雑草イネが主食用米に混入した場合、等級落ちの原因になるのを一番恐れています。

雑草イネの赤色の玄米
「雑草イネ」とは、雑草性と呼ばれる特徴を持つさまざまなイネの総称です。脱粒性が高く,こぼれた種子が水田で越冬して世代交代を繰り返すイネです。
取材日:2022年7月29日(金)
◉収穫前の生育状況
稲の登熟期です。




播種から140日目、この時期は稲の登熟期です。「ふさおとめ」及び「ふさこがね」の草丈は、約90cm前後で順調な生育を見せています。
取材日:2022年8月19日(金)・8月23日(火)
◉収穫
待ちに待った乾田直播の収穫です。



収穫前の「ふさこがね」(8月23日)
Q、ふさおとめが8月19日、ふさこがねが8月23日に収穫日を決めた理由は?
A、収穫時期は、両品種ともに穂の外観上の判断で決めました。(1穂あたりの青籾割合/黄色・緑色の判断)



「ふさおとめ」は、出穂44日後に、「ふさこがね」は出穂48日後に収穫が行われました。5条刈りのコンバインで収穫後すぐに籾を遠赤外線乾燥機へ入れて乾燥を開始しました。
取材日:2022年8月25日(木)
◉籾摺りと選別
最終工程の籾摺りと選別が行われました。



稲から籾を取り外す脱穀の後に、籾摺りと選別が行われました。小型光選別機で、斑点米やヤケ米、籾、異物を除去した玄米を効率的にフレコンバックに移し納品準備の完了です。8月11日に始まった稲刈りは、9月30日まで続きました。
取材日:2022年10月7日(金)
◉2022年の乾田直播を振り返って
稲刈りが終了した時点で改めて乾田直播を振り返って頂きました。

Q、2022年度の乾田直播での収量は?
A、「ふさおとめ」の収量は約7.5俵/10a。初年度の昨年は約8.5俵/10aでしたから1俵収量が下がりました。しかし、今年始めた「ふさこがね」の収量は約9.26俵/10a。おなじ品種の移植は約9.36俵/10aだったので、移植と変わらない収量でした。直播で9俵も獲れたのは、とても嬉しいです。
Q、乾田直播の良いところは?
A、乾直は、ほ場によると思いますけど、後作業が全て楽になるので絶対にやるべきだなと自分は思います。例えば追肥だったり、稲刈りだったり、水田に入っても沈むことがなく全ての作業が楽になりました。
Q、来年も乾田直播を行いますか?
A、もちろん! 乾直を行うことによって、水田を乾かして畑地化し、将来は稲以外の麦や大豆を作っていきたいなと思っています。乾直は、私にとって一つの通過点でしかないですね。これをキッカケにして可能性が広がるって言うんですかね、今後も頑張って行こうと思います。そのために、モミサブローとケンブリッヂローラーを導入しようと考えています。今年は播種作業から一週間後に雨が降ってほ場が水浸しになり、表面水が抜けるのに3〜4日程かかったので、排水改善を行うためモミサブローを使ってどのくらい水が早く無くなるか試したいと思います。また、印旛沼のほとりの乾かない水田に籾殻を入れて乾かして、乾直をしようかなとも思っています。さらに、12月に12インチのリバーシブルプラウで水田を耕起してレベラーで均平にし、ケンブリッヂローラーで鎮圧、入水して移植や無代かき移植が出来ればと考えています。
取材日:2022年11月11日(金)
◉浅耕タイプリバーシブルプラウでの反転耕起
来年に向けての土づくりが始まりました。



反転耕起:丘溝兼用リバーシブルプラウ R124AJC(粘質土壌用モデル)
トラクタ:Kubota パワクロMZ655
前処理:乾田直播の稲刈り後(5反)をロータリーにて攪拌
水田での反転耕起は、下層の還元層(グライ層)を上層にあげることができ、還元層を太陽と空気にさらして酸化させることができます。これにより土壌は乾燥して乾田化と地温上昇を促進します。さらに、害虫の卵や雑草の種子、過剰養分が下層に埋没し、下層のフレッシュな土が表層に現れます。
Q、プラウで反転耕起を行う理由は何ですか?
A、1番に雑草対策です。表面に雑草の種があるので、それを下に持っていけば草が抑えられるかと思い反転耕起を行いました。